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私は 年老いた老夫婦に
養女にもらわれて育ちました
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「おじいちゃん」「おばあちゃん」
っていう風に 呼んでました
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1969年5月30日
私はこの世に生を受けました
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「どうして 私は
ここにいるんだろう?」
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「私は 何のために
生まれてきたのかな?」って
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「私は 生まれなかったかも
しれないな」とか—
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そんなとき 映画が
私の前に やってきたんです
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自分の目で見たものを
記憶・記録してくれる
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そんな8ミリフィルムが
自分の目の前に現れました
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「私は いないほうが
良かったのかな?」
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なんで今 私は
ここに立ってるんですか?
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皆さんは どうして そこで
私の話を聞いてるんですか?
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インターネットで私のこと見てる人
なんで今 その時間を費やしてるんですか?
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カチッ カチッて
1秒ずつ過ぎていきます
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なのに この1コマ1コマ刻んでくれる
フィルムっていうのは
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その時間を 巻き戻すことが
出来たんです
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この時間は もう2度と
私の前には姿を現しません
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「素晴らしいな映画って」
って思いました
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「なんで私に 映画が舞い降りて
きたんだろう?」って思いました
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だって もう2度とないと
思ってた時間が
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「すごいな
タイムマシンかな これは?」
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このおばあちゃんの
映像を撮っている時に
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自分の家の台所から 扉を開けて
おばあちゃんに触れてました
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本当のおばあちゃんに
触れに行きたかった
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あたたかくて
本当に生きて そこにいました
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そこで そのおばあちゃんに
触れていた自分
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「主観と客観っていうことなのかな これが」
って思いました
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私のおばあちゃんのことを
まったく知らない人たちが
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おばあちゃんの
畑仕事を見ていてくれている
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「ああ 映像って 海を越えるんだな」
って思いました
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そして「感覚を共にできるんだな」
って思いました
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共にできた感覚ほど
強いものはありません
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なぜならそれは その人達の心の中に
確かに存在するものだから
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自分が裏切らない限り
必ず繋がっていくからです
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こうして私は 国際映画祭の力を経て
このような感覚に辿り着きました
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映画祭は 人と人を結ぶ
架け橋になり得るんだ
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「私がどうしてここにいるのかが
わからない」
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そして何でもない
普通のおばあちゃんの映像で
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それを もたらしてくれたのが
国際映画祭でした
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私が海外へ行くのではなくて
海外から日本に人がやってくる
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このおばあちゃんが 私を
育んでくれた 奈良という場所で
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この架け橋を作ることができたら
という風に思いました
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そしてまだ 多くの人には
知られていません
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そこの五重塔の下には
五十二段の階段というのがあります
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そこを私は レッドカーペットに
してみたらどうかなと思いました
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レッドカーペットは カンヌじゃないと
いけないわけではありません
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そして そこにレッドカーペットを
作ることが大事なのではなくて
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そこに自分たちがいることを
誇りに思うということが大事なんです
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この映画祭は できれば映画を
上映するだけではなくって
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その時グランプリを取った
メキシコ人の監督に
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メキシコから来た
まだ三十代の若い監督が
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奈良県の十津川村という所で
映画を撮りました
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また国境を越えて 海を越えて
今地球を周り始めます
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映画祭は 映画を見るだけではなく
人と人を結ぶ
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とてもクリエイティブな場所だと
思っています
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私はこの世に生まれた意味がわからずに
ずっと過ごしていました
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なぜだかわからないけど
ここに映画がやってきたんです
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私はその役割を また 新しい人との
繋がりに変えたいと思いました
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「皆さん」っていう風に
呼んでしまうと
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とっても漠然としていて
誰とも繋がれない感じがします
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今日 ここにいる
1人ひとりの名前 呼んでみると
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ちゃんとその人の名前を
呼び合って 繋がり合う
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私はそんな なら国際映画祭を
続けていきたいと思っています
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名前のある あなたと
繋がりたいと思っています
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そして私は この奇跡を
見つめ続けたいと思ってます
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あなたも その奇跡を
一緒に見てください
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おばあちゃんからもらった
言葉を贈ります
▼河瀬さんの作品紹介
「萌の朱雀」
吉野の山奥、過疎化の進む村が舞台。
親戚に思いを寄せる学生、過疎化の悲しさ。
緑があふれる映像はとてもきれいで、音楽も好み。
「火垂」
ストリッパーと陶芸家の恋。
どぎつい関西弁のまま荒々しく進む。
愛することの苦しさに泣ける。
「沙羅双樹」
ならまちを舞台に、消息不明になった双子の弟を中心に家族を描く。
高校生の制服姿と、汗のにじみまで撮るカメラワークが生々しい。
「もがりの森」
軽度の認知症のグループホームでの介護士のお話。
最高の離婚の 尾野真千子が主演を演じる。
茶畑で鬼ごっこをする年老いた男性が楽しい。
▼河瀬さんの最新作
そして、いまちょうど映画館で上映されている映画があります。
村上淳と息子が親子共演で話題のあれ。
カンヌでは12分ものスタンディングオベーションがあったとのこと!
劇場で見る人にアドバイスするなら、
河瀬さんの作品は生々しい映像なので気を付けて、です。
映画館では冒頭のシーンで男性が席を立ってました。
前情報いれずに映画を見に来ているおじさんかっこいいぞ。
「2つ目の窓」
http://www.futatsume-no-mado.com/
▼奈良の興福寺
TEDで言っていた奈良の興福寺の52階段
レッドカーペットを敷きたいと言っていた階段ですが
写真を見ると、とても似合いそうです。
奈良に行く際は、こちらのお店もチェックして。
http://underlinedesign.blogspot.jp/2012/05/blog-post_03.html